佐渡島とトキの物語

絶滅したトキを再び大空へ!人と生きものの共生を目指す佐渡島 ...

 

佐渡島とトキの物語

1. 佐渡島とトキの関係

佐渡島は、新潟県沖の日本海に浮かぶ大きな島で、山地・里山・水田・湿地が入り組んだ自然環境を持っています。トキは、ドジョウ、カエル、小さな昆虫などを食べる鳥で、水田や湿地、里山の環境と深く結びついて生きています。環境省によれば、トキは全長約80cm、翼を広げると約130cmに達し、現在も絶滅危惧ⅠB類に位置づけられています。

佐渡がトキ保存の中心になった理由は、最後まで野生のトキが残った場所だったからです。かつてトキは日本各地にいましたが、明治以降の乱獲、森林伐採、農薬使用による餌生物の減少、山間部の水田消失などによって急激に数を減らしました。

2. 日本の空からトキが消えた時代

トキは1952年に特別天然記念物に指定され、1967年には新潟県が佐渡にトキ保護センターを設置しました。しかし保護は間に合わず、1981年1月、佐渡に残っていた野生トキ5羽がすべて捕獲されました。この時点で、日本の空から野生のトキはいなくなりました。

捕獲後、日本産トキ同士で人工繁殖が試みられましたが、繁殖は成功せず、2003年には最後の日本産トキ「キン」が死亡しました。つまり、現在佐渡の空を飛ぶトキは、日本産の血統そのものではなく、中国から提供された個体をもとに繁殖・放鳥された個体群です。この点は、トキ保存の歴史を理解するうえで非常に重要です。

3. 中国からの協力と人工繁殖の成功

トキ保存の転機は、中国との協力でした。1981年、中国陝西省洋県で、絶滅したと思われていたトキが再発見されました。その後、日中協力のもとで保護・繁殖が進められ、1999年には中国から「友友」と「洋洋」のつがいが日本に贈られました。そして同年、佐渡トキ保護センターで「優優」が誕生し、日本で初めて人工繁殖に成功しました。

この成功によって、トキ保護は「最後の個体を守る段階」から、「再び野生へ戻す段階」へ進みました。佐渡トキ保護センターでは飼育繁殖を行い、野生復帰ステーションでは放鳥に向けた順化訓練が行われています。

4. 2008年、佐渡の空へ再び

2008年、佐渡で第1回の放鳥が行われました。これは、1981年に最後の野生トキが全羽捕獲されてから27年ぶりに、トキが佐渡の空を飛んだ歴史的な出来事でした。

その後も放鳥とモニタリングが続けられ、2012年には36年ぶりに野生下でヒナが誕生しました。2016年には、放鳥個体の子から生まれた、いわゆる「純野生トキ」のヒナの巣立ちも確認されました。

つまり、佐渡のトキ保存は、単に鳥を飼育して増やしただけではありません。人工繁殖、放鳥、野外での繁殖、そして野生世代の誕生へと段階を踏んできたのです。

5. 現在の状況

環境省の2026年3月発表では、2025年末時点で佐渡島内には推定473羽のトキが生息し、そのうち繁殖可能な2歳以上の個体は377羽とされています。また、2026年春時点で75組程度のペアが観察されています。

これは大きな成果ですが、「もう安心」という意味ではありません。トキは餌場となる水田、営巣できる林、農薬を抑えた環境、人間との適度な距離がなければ生きていけません。したがって、トキ保存の本質は、トキそのものを守ることから、トキが暮らせる佐渡の里山全体を守ることへ広がっています。

6. 「朱鷺と暮らす郷」――農業と保存の結びつき

佐渡の特徴は、トキ保存を農業と結びつけた点です。佐渡市の認証米「朱鷺と暮らす郷」は、トキが餌をとれる水田環境を守るため、「生きものを育む農法」、年2回の生きもの調査、化学合成農薬・化学肥料の地域基準比50%以下、畦の除草剤不使用などを要件にしています。

さらに佐渡島全体は、2011年に「トキと共生する佐渡の里山」として、日本で初めて世界農業遺産に認定されました。評価されたのは、トキとの共生を目指す農法、棚田景観、伝統的な農村文化などです。

ここに、佐渡のトキ保存の大きな意義があります。トキを守ることは、米づくりを変えること、田んぼの生きものを増やすこと、里山を守ること、地域の誇りを回復することでもありました。

7. 結論

佐渡島のトキ保存への道のりは、絶滅の物語であると同時に、再生の物語です。

日本の野生トキは1981年に姿を消し、2003年には日本産最後のトキも死にました。しかし、中国との協力、佐渡トキ保護センターの人工繁殖、2008年からの放鳥、農家や地域住民による環境保全によって、トキは再び佐渡の空を舞うようになりました。

この歩みが教えているのは、希少動物の保護は「鳥だけを守る」ことでは足りないということです。水田、森、餌となる生きもの、農業、地域社会、そのすべてがつながって初めて、トキは生き続けることができます。佐渡のトキは、自然と人間がもう一度共に生きる道を示す象徴だと言えます。

(おわり)

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